- 私と彼女のワンピース
空気が冷たくなってきた
私はこれからの季節の、身体の温かさとの温度差を待ちわびている
ひやりとした空気、衣服、食器、ドアの取手、なにもかもが冬を持っていて
私は色々なもので自分の身体を温かくしながら、それらとの関わりを楽しむ という贅沢だ
少し先の季節のことを考えていたら、
ふと 小学生のころ、時々一緒に帰っていた女の子のことを思い出した
いつもきちっと髪を二つに結っていて、目が大きくて、華奢ですらっとした子
私は学校の子と長い時間一緒に居ることが得意ではなかったけれど、
その子はさっぱりとしていて、意志が強くて、でも自分を人に押し出さない感じが好きだった
なにより、目が綺麗だった
ある冬に私たちはたまたま、色違いの同じワンピースを持っていて
厚手の生地、形は袖無しで、私は黒色 彼女は焦げ茶色
当時、女の子の中では子ども服のブランドがあったりしたけれど、
きらきらとしたロゴが入った服よりも、
その彼女とお揃いのワンピースがなにより嬉しかったのを憶えてる
その子は、中学にあがる前にどこかに引っ越してしまった
もし仮に、私たちがそのまま中学生、高校生になる間を共に過ごしたら
順調に楽しく心を通わせていたのだろうか?
もしくは、さらに選択が多くなっていく凄まじい学生生活の中で、
それぞれが自然とお互いを必要としなくなっただろうか?
彼女は今、何を食べ どんな服を着ているのだろう
時々は、しっかりと幸せな気持ちになったりしているだろうか
- 水を飲むこと
学生時代、夏。
友人と青森に旅行へ出かけたことがある
なんだかくたくたになって、
帰りのフェリーの待ち時間のあいだにレストランへ
差し出された水を、友人である彼女が飲んでいる
自然な表情で、当たり前に水を飲む彼女をみていたら
ああ これってすべてなのかもしれないな、
そんなふうになんとなしに実感していたことを思い出す
「生きていくっていうことは、
ごくごくと水を飲むようなものだって、」
−吉本ばなな 著 アムリタ−
- 青い傘をさしている
風が吹いている。
生暖かい空気に黒い雨。
どうしても身体は濡れてしまうし、
着古したワンピースも湿っている。
単純な心が、晴れるの反対側にいってしまう。
傘の青が目に入って、
この青は私を気持ち良くさせているなあとふと思う。
力強い風も、黒い雨も悪いことばかりではない。
この青い傘をさしていることで、今日の私は保たれている。
あらゆる場面で、物が支えてくれることは少なくはない。
些細で小さな物は、劇的に人生を変えるわけではなく、
人の生活を瞬間的に保っていることがある。
- ショーウィンドウと夜
終電前の時間帯、
駅までの道沿いにある高価なブランドのショーウィンドウ。
綺麗なオレンジ色の牛革の旅行鞄
マネキンの長すぎる足
照明がきらきらと当たっていて
すごく眩しい。
数分眺めた後
そうそう、電車電車、と歩道に視界を戻したら
びっくりするくらい真っ暗で
足元さえ見えなくなっていたけれど
歩くことは出来そうだった
- 1990.4.17
生まれた日。
何故、生まれた日付がおめでとうなのかと思うと、
なんでだろう?と少し考え込んでしまうけれど
24年前の今日、母から私が生まれ、世界と初めて直に触れたのだ
その事実を思うと、ああ、やっぱり嬉しいし、幸運だなと思う。
去年、友人が出産した赤ん坊と対面した時
「はじまったばかり」な空気に圧倒されてしまった。
この子はあらゆること全てをこれからはじめるんだ
羨ましいし、負けたくないなと思った。
わたしは わたしをはじめたばかりだ
- 赤いスカートについて思い出すこと
小さい頃、母の姉がくれた真っ赤なスカート
当時は黒や茶や紺の暗い色の服をよく着ていて
見慣れない膝丈の赤いスカートはなかなか着ることができなかった
かわいらしい女の子のしるしのように思えて
着て出歩く勇気は出なくて
ずっとハンガーに掛かったままのそのスカートを何度も見上げていた
約15年ぶりに、そのスカートを思って絵にして
安西水丸さんが講師をしてくださる日にみて頂いた
この一枚は君の原点みたいなものになる気がする
なにかあるね、って笑いながら
冗談でも嘘でも
帰りの電車のなかで泣いてしまうくらい本当に本当に嬉しかった
赤いスカートは、言うとおりに私のスタートの一枚になった
先生の絵が、印刷されて本の一部になってこの手の中にある
これがほんとうのこと