ホット・レモンティ 2017.12.7

 
 
大きな月
石油の匂い
頬が切れるような冬の風
 
ライトの付かない自転車と忘れてきてしまった赤い手袋
一つも車のいない広く静かな道路の真ん中で
本当の優しさは自発的なものだと確信する
 
小さな猫
欠けたマグカップ
少し甘すぎるフレンチトースト
 
あの人は温かい紅茶には確実にレモンを浮かべて
その一口一口を大切すぎるかのように飲んでいた
自分の保ち方がとても上手な人だった
 
きっと今も誰がために
それはとても自然に
あの人があの人であるために
 
心無い浅はかさが身に降りかかれば
口を開かず笑みを浮かべているだけ
 
誰かが罵り嘲るなかで
限りある人生を謳歌する
 
 

白い猫が死んだとき 2016.08.17

 

白い猫が死んだとき

私の髪はまだ短く 化粧なんてしたこともなかった
空き地の草や木の実を集めては心満たされて 
服についたひっつく実を懸命にはがしていた
 

白い猫が死んだとき
小さな子供たちはふざけて走りまわり
 沢山の大人は酒を飲んで嘘をはべらして笑っていた

 

けれど確かに猫の身体は温みをもっていて
その毛並みは心地よい柔らかさ

 
私はそのことを忘れてはならない

私はそのことを忘れてはならない

 

蝉の声を聴けば思い出すの
生きるちから 死の匂い

 

ユーカリのあなたへ 2016.03.31

 

 

青白い緑の葉
上を向く細やかな白い粒
あなたにきっと似合うのでしょう
 
命 木から落ちてしまったけれど
きっと一等に強い優しさを備えている
微笑みは声にならない 上品なユニークさ
 
いつか抱きしめてほしい
そうすれば抱き返すことができるから
 
私 あなたの細胞を携え生きている

 

 

手に触れれば 2016.02.1

 
 
手に入れれば人生が変わると思っていたの
 
大きな黒色の革鞄
赤いオープンカー
優しくて大らかな友人
 
人生は思うように変わると思っていたの
 
小さなゴールドのネックレスを身につければ
豊かなワインをひとくち口に含めば
 
なのにある程度の高揚しか残らないものだから
私は地団駄を踏んで踠いている
 
本当に欲しいもの
どこにいるかもわからない あなたの手に触れれば
人生は変わらずとも 私は変われるだろうか
 
 

紫色の花 2016.01.17

 

 

小さな男の子 楽しげに
折り紙でつくった 紫のチューリップ

 
きれい きれいな色
折り目のずれた それはそれは立派な花

 
歌にあるような 赤 白 きいろではなく
大きな大人は それを花だとは認めてはくれないけれど
 
 
いつか 紫のチューリップ
両手いっぱいに抱えて会いにいく
 
きれいだねってささやいて
小さな男の子は相づちを
 
 

Green Moon 2015.12.20

 
 

分かち合える人々と
数え切れない音楽 グラスに何度も注がれるワイン

 

満ちていって 笑い転がるような
満ちていって 泣き崩れるような

 

心が溢れているから 涙が流れてしまうけれど

 

音楽が 言葉が、
軽々と私を飛び越えていく

 

一人で歩く深夜の道路、
月は豊満な半月の形をしていて
アスファルトと靴が鳴らす音が 驚くほど響いている

 
 

この夜はしっかりと引き出しに仕舞って
すぐに見つけられるよう印をつけておこう

 
 
 

とうもろこしと夏 2015.08.27

 

掛けられたフライパンが不安定に揺れるのを見ながら

とうもろこしを二本まるごと茹でています

少しの面倒だけれど一枚皮を残して
茹でた後は10分そのままにして粗熱をとる
こんな夜中に とも思うけれど
年中食べれるものではないし
冷ました塩水に浸けておけば 数日は食べられるでしょう
この蒸し暑い夜と 茹でたとうもろこしはとても自然的
甘くて瑞々しいとうもろこし
小さくて 心地よい調和

 

 

再見 2015.08.7

 

さようなら
さようなら
大きな声でさようなら

 

海の向こうで暮らす幼いあの子が
私に向かってさようならあと手を振っている

 

さようなら
さようなら
伝わるようにさようなら

 

慌てて私も前のめりになって
あの子に向かってさようならと手振った

 
 

瑞々しい時間 2015.04.17

 

生まれた日に思い出すのは何故か

 

少し前に雨の中花壇を駆け下りた事

 

ゆっくり歩くには雨が強すぎて 友人と笑いながら真剣に

 

息を切らして走った 瑞々しい時間だったんだ

 

こんな時間はあといくつ?

 

まだ欲張って 良いのだろうか

 

ダンサー・イン・ザ・ダーク 2015.03.29

 

私はもう 見たいものは全て見たのよ
木々も見たし
そよ風と戯れる柳の葉も見たわ
人生の途中で、親友に殺された男も見たし、
私は自分が何者だか分かったし
どんな人間になっていくかも分かっている
すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないの
(だけどゾウや、ペルーの王様は見てないだろう?)

みたいと言えることがしあわせよ

(ねえ、中国はどう?万里の長城は見た?)
どんな壁も偉大よ、屋根が崩れ落ちなければ

(どんな男と結婚するか知りたくないかい?
そして彼とどんな家に住むのかを)
そんなこと興味がないわ、本当よ
(ナイアガラの滝は見たことがないだろう?)
水を見たわ 滝も水よ
(じゃあ、エッフェル塔は?エンパイア・ステイトビルは?)

初めてのデートの脈拍は同じくらいに高かったわ
(君の髪に指をからませて遊ぶ孫の顔を見たくない?)
もう本当にそんなことは興味がないの、本当に

私はすべて見たの、暗闇も
そこに輝く小さな閃光も
私は、私が見たいものを見て、必要とするものを見たの
それだけで十分なのよ
それ以上欲しがるのは欲張りだわ
自分が何者かもわかったし、
これからどんな人間になっていくかも分かってる
すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないの

 

björk  - I’ve seen it all

 

彼女は 息子とミュージカルをまともに愛していた

どんな壁も偉大で、力強い滝も一滴の水

生きることは数じゃない 経験は数えられる物じゃない

まともに誰かを愛すること

まともになにかを愛すること

 

 

 

たしかなもの 2015.01.23

 

 
はじめての個展が 無事に終わり
 

足を運んでくれた人

 

遠くから がんばるんだよと言葉をくれた人

 

ほんとうにありがとう

 

 

ギャラリーには 取り囲むように

 

 30枚の絵が並んだ

 

 

展示が始まると それまでのじんわりとした

 

不安みたいなものは すっかりとなくなる

 

私はしっかりと背を伸ばし

 

絵を受け入れてくれた人と 言葉を交わす

 

会話の一つ一つを

 

出来るだけ自分の中に留めておきたい

 

そんな風に思える時間を幸運にも過ごしていました

 

 

手元を去って 新しい生活の一部となる絵たち

 

どんな風に寄り添えるのだろう

 

私にはきっと知り得ないけれど

 

 

私が描いた絵から

 

人がみてくれたものが 全てなんだ

 

 

 

私と彼女のワンピース 2014.11.4

 

 

 

空気が冷たくなってきた

 

私はこれからの季節の、身体の温かさとの温度差を待ちわびている

 

ひやりとした空気、衣服、食器、ドアの取手、なにもかもが冬を持っていて

 

私は色々なもので自分の身体を温かくしながら、それらとの関わりを楽しむ という贅沢だ

 

少し先の季節のことを考えていたら、

 

ふと 小学生のころ、時々一緒に帰っていた女の子のことを思い出した

 

いつもきちっと髪を二つに結っていて、目が大きくて、華奢ですらっとした子

 

私は学校の子と長い時間一緒に居ることが得意ではなかったけれど、

 

その子はさっぱりとしていて、意志が強くて、でも自分を人に押し出さない感じが好きだった

 

なにより、目が綺麗だった

 

ある冬に私たちはたまたま、色違いの同じワンピースを持っていて

 

厚手の生地、形は袖無しで、私は黒色 彼女は焦げ茶色

 

当時、女の子の中では子ども服のブランドがあったりしたけれど、

 

きらきらとしたロゴが入った服よりも、

 

その彼女とお揃いのワンピースがなにより嬉しかったのを憶えてる

 

 

 

その子は、中学にあがる前にどこかに引っ越してしまった

 

もし仮に、私たちがそのまま中学生、高校生になる間を共に過ごしたら

 

順調に楽しく心を通わせていたのだろうか?

 

もしくは、さらに選択が多くなっていく凄まじい学生生活の中で、

 

それぞれが自然とお互いを必要としなくなっただろうか?

 

彼女は今、何を食べ どんな服を着ているのだろう

 

時々は、しっかりと幸せな気持ちになったりしているだろうか

 

 

 

 

水を飲むこと 2014.08.27

 

 

学生時代、夏。

 

友人と青森に旅行へ出かけたことがある

 

なんだかくたくたになって、

 

帰りのフェリーの待ち時間のあいだにレストランへ

 

差し出された水を、友人である彼女が飲んでいる

 

自然な表情で、当たり前に水を飲む彼女をみていたら

 

ああ これってすべてなのかもしれないな、

 

そんなふうになんとなしに実感していたことを思い出す

 

 

 

「生きていくっていうことは、

ごくごくと水を飲むようなものだって、」

 

−吉本ばなな 著 アムリタ−

 

青い傘をさしている 2014.07.10

 

 

風が吹いている。

生暖かい空気に黒い雨。

 

どうしても身体は濡れてしまうし、

着古したワンピースも湿っている。

単純な心が、晴れるの反対側にいってしまう。

 

傘の青が目に入って、

この青は私を気持ち良くさせているなあとふと思う。

 

力強い風も、黒い雨も悪いことばかりではない。

この青い傘をさしていることで、今日の私は保たれている。

 

あらゆる場面で、物が支えてくれることは少なくはない。

 

些細で小さな物は、劇的に人生を変えるわけではなく、

人の生活を瞬間的に保っていることがある。

 

 

ショーウィンドウと夜 2014.04.28

 

 

終電前の時間帯、

 

駅までの道沿いにある高価なブランドのショーウィンドウ。

 

綺麗なオレンジ色の牛革の旅行鞄

マネキンの長すぎる足

 

照明がきらきらと当たっていて

すごく眩しい。

 

数分眺めた後

そうそう、電車電車、と歩道に視界を戻したら

びっくりするくらい真っ暗で

 

足元さえ見えなくなっていたけれど

歩くことは出来そうだった

 

 

 

1990.4.17 2014.04.17

 

 

生まれた日。

 

何故、生まれた日付がおめでとうなのかと思うと、

 

なんでだろう?と少し考え込んでしまうけれど

 

24年前の今日、母から私が生まれ、世界と初めて直に触れたのだ

 

その事実を思うと、ああ、やっぱり嬉しいし、幸運だなと思う。

 

 

 

去年、友人が出産した赤ん坊と対面した時

 

「はじまったばかり」な空気に圧倒されてしまった。

 

この子はあらゆること全てをこれからはじめるんだ

 

羨ましいし、負けたくないなと思った。

 

わたしは わたしをはじめたばかりだ

 

 

 

 

赤いスカートについて思い出すこと 2014.03.24

 

 

小さい頃、母の姉がくれた真っ赤なスカート

 

当時は黒や茶や紺の暗い色の服をよく着ていて

 

見慣れない膝丈の赤いスカートはなかなか着ることができなかった

 

かわいらしい女の子のしるしのように思えて

 

着て出歩く勇気は出なくて

 

ずっとハンガーに掛かったままのそのスカートを何度も見上げていた

 

 

 

約15年ぶりに、そのスカートを思って絵にして

 

安西水丸さんが講師をしてくださる日にみて頂いた

 

この一枚は君の原点みたいなものになる気がする

 

なにかあるね、って笑いながら

 

冗談でも嘘でも

 

帰りの電車のなかで泣いてしまうくらい本当に本当に嬉しかった

 

赤いスカートは、言うとおりに私のスタートの一枚になった

 

先生の絵が、印刷されて本の一部になってこの手の中にある

 

これがほんとうのこと